テレワークとは情報通信技術(ICTs)を活用した場所や時間にとらわれない柔軟な働き方を総称しており、その歴史は、アメリカで1973年頃にロサンゼルス周辺でエネルギー危機とマイカー通勤による大気汚染の緩和を目的として始められたと言われています。日本での取り組みは、それから10年後でした。
三鷹市でのINS実験の一環としての民間企業による吉祥寺市での試みを皮切りに、多数の企業により単独で、あるいは共同で、さまざまなテレワーク施設が各地に開設され、また勤務実験が行われました。1990年代後半になると、インターネットを中核とする情報通信ネットワークの拡充や企業ネットワークの整備、パソコンや情報通信機能を備えた携帯端末の急速な普及とあいまってテレワークがますます脚光をあびるようになりました。そうした流れのなかで、1999年6月に日本テレワーク学会が設立されました。
テレワークは、社会全般、経営者、そして就業者にとっての3つの側面からその効果が期待されています。社会にとっては、都市問題の緩和、地域活性化、雇用創出と新規産業の創出、地球環境負荷の軽減、社会構造の改革などが期待されます。経営者にとっては、情報共有型の付加価値経営への契機、組織変革と経営スピード化の契機、人材の確保と新しいナレッジの獲得、オフィスコストの削減などが期待されます。就業者にとっては、仕事の生産性・効率性の向上、通勤の肉体的・精神的負担の減少、家庭内でのコミュニケーション良好化、趣味や自己啓発など自分の時間がもてるなどが期待されます。
20世紀から21世紀への世紀越えにあたって、世界規模で様々な事象が発生し、多くの分野で値観の転換が迫られました。テレワークの効果が期待される3つの側面、社会全般、経営者、就業者での成果を生みだすには、例えば、社会像や国土観におけるイデオロギー、経営や組織におけるビジネスプロセス、進化するテクノロジー、変容するワークプレイスなどにおける冷静かつ客観的な分析と、それらがどうあるべきかの大胆な提言を新たな価値観の下で行わねばなりません。日本テレワーク学会は、多分野にわたる研究者や事業を実践している実務者などが広く集まり、こうした課題に先駆者として答えられる学術体としての存在を示していきます。
一般社団法人 日本テレワーク学会 会長
市川宏雄(明治大学名誉教授)